「炎の牛肉教室」の著者山本謙治氏は、今、我が国の牛肉は混乱期にあるといいます。マスコミ等で報道されるA5とかA4とかいうものは必ずしも「牛肉の美味しさ」を示すものではなく、消費者が抱いている「最高の牛肉」ということではない。牛肉の流通に携わる人たちの中には、「私たちが食べるとすればA5の牛肉は選ばない」という人もいると紹介し、美味しさとは別のところで牛肉の格付けが決められている、サシを中心とした格付けではない赤身肉の位置づけも含めた美味しさについての評価が必要であるといいます。消費者はまず牛の肉を知ることから始めてほしいという問題提起が伝わります。
 詳しくは本書をお読みいただきたいのですが、おいしい牛の肉の方程式があってそれは「(牛の品種×餌×育て方)×熟成=牛の肉の味」だといいます。
 まず品種とは、和牛といってもいろいろな品種があって、頭数の多い黒毛和種だけではなく、日本短角種、褐毛和種(高知系、熊本系)、無角和種と、この品種同士の交雑種が和牛といわれます。さらに、国産牛という表示になるけれども白黒の牛のホルスタインやジャージーなど乳牛に由来する牛肉も供給されています。肉質の改善を狙って、これらの乳牛と和牛を交配した交雑牛もあり、国内で供給される牛肉は40%、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド産等の輸入牛肉が60%あると牛肉の供給事情について触れられています。次は餌の問題ですが、グラスフェッド、グレンフェッドなどの基本的事項から、輸入飼料依存のことなど、牛肉の風味に影響することを方程式にあてはめて考え、育て方では舎飼いと放牧の違いに触れています。熟成については、定義があいまいなまま使われていて、本当の熟成とはどういうものかを考え、経産牛の美味しさを見直そうと述べます。いずれにしてもそれぞれの肉の来歴を知り、それぞれの牛肉の多様な個性を認め、知ることが牛肉を美味しく食べるために必要なことではないか、牛肉ではなくて「牛の肉」として考えることがポイントといいます。
 また、筆者は、岩手県と北海道に繁殖母牛を各1頭持っており、毎年生まれてくる子牛を委託肥育して自分で食べるとともに、販売するということを行っています。農畜産物流通コンサルタント、農と食のジャーナリストとしての活動の中で知り合った個性的なレストランのシェフや人脈の広さ、全頭の部位を売り切る難しさの記述も読みどころの一つかもしれません。

詳しくは山本謙治著「炎の牛肉教室」講談社新書定価800円(+税)をお読みください。