政府の規制改革推進会議が規制改革の手始めとして農業改革に取り組み、生乳流通の見直しを始めるとのことです。かねてから農協の肥料価格や飼料価格の高さが指摘されているところですが、これについては当然、全農など農協系統は大反発しており、どんな議論になるのか注目していかなくてはなりません。      今回ご紹介する山下一仁著 幻冬舎新書の「バターが買えない不都合な真実」は、このところ毎年のように繰り返されているバター不足、この真の原因がどこにあるのか。元農水省の幹部であった著者が独特の分析データにもとづいて論じます。
 著者は、「酪農・乳業、牛乳・乳製品の世界は、農業と製造業、農産物と多種類の乳製品で成り立つ複雑な世界である。米のように、農業と農産物だけという世界よりも、はるかに入り組んでいて、理解できないところがある。」と言います。
農水省など中央官庁の考え方は国民の利益ではなく、組織の利益を守ることであり、大学などの農業経済関係の研究者も中立ではなくて、農水省の補助をもっと高めて農業保護を高めるべきだという立場にあり、農政が納税者や消費者の負担軽減について論議することは「タブー」になっているとして、これを「原子力村」ならぬ「農業村」「酪農村」と言っています。
 まず、目次からいくつか拾ってみますと、第1章は消えたバターについての酪農村の主張、第2章が日本の酪農とアメリカの切れない関係、第3章が牛乳・乳製品は不思議な食品、以下、酪農の政策史、酪農関係の輸入制度の概要に触れ、第6章でバターが消えた本当の理由と続き、最終章の第7章で日本の酪農に明日はあるか?が示されます。著者が農林水産省の内部に居られた方だけに、酪農だけにとどまらず、我が国農政を考えるうえで、示唆されることの多い一書となっています。
 詳しくは同書をご覧ください。

 なお、著者は、19955年、岡山県生まれ、東京大学法学部出身で農学博士。1977年農林水産省に入り、ガット室長、農村振興局次長等を歴任し、現在はキャノングローバル戦略研究所・研究主幹。「農業を破壊したのは誰か」(講談社)等著書多数。